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名古屋高等裁判所 昭和51年(う)355号 判決 1977年1月13日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中七〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人内山賢治、同加藤平三連名の控訴趣意書(なお、当審第一回公判調書中の内山弁護人の釈明参照)に、これに対する答弁は、検察官村林久男名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。

控訴趣意第一点の論旨について

所論は、要するに、(一)被告人において、原判示安田清春から金員喝取の意思が全くなかったのにかかわらず、原判決が原判示第一の二の事実を認定して被告人を恐喝未遂罪に問擬したのは、事実を誤認したものであり、また、(二)かりに右の点に事実誤認の違法が認められないとしても、原判決が右の恐喝未遂罪の手段である共同脅迫の事実を恐喝未遂罪と別個に暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二二二条)違反の罪に問擬したのは法令の解釈適用を誤ったものであって、右各違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで、まず、所論(一)の論旨について案ずるに、原判示第一の二の事実に対応する原判決挙示の関係各証拠を総合すると、原判示第一の二の事実は、所論にかかわらず、所論の金員喝取の犯意の点を含めて優にこれを肯認することができる。もっとも、原審公判調書中には、被告人を初め、原審証人島貫礼三及び同渡部満の各供述として、所論に添い、前認定に牴触する各記載部分が存するが、該各供述記載部分は、いずれも原判決挙示の爾余の関係各証拠と対比して俄に措信できず、他に前認定を左右するに足りる措信し得る証拠はない。所論は、被告人らが原判示安田清春を脅迫したのは、同人が原判示葬儀に出席せず、また、覚せい剤を使用するなどしていたため、組員としてのけじめをつける目的であって、被告人らに金員喝取の意思がなかった旨るる主張するが、前掲の措信し得る各証拠を総合すれば、被告人は、原審相被告人藤原徹らが敢行した原判示第一の一の犯行の直後右藤原と共に、該犯行によって極度に畏怖した原判示安田清春に対し、こもごも「お前なんで本葬に出なんだのや。半殺しにされたいか。川へ放り込んでやろうか。」などと脅迫文言を申し向けた末、「この始末はどうつけるのや。」と暗に金員を要求する趣旨の言辞を吐いたため、右安田が「お金でごめんして下さい。」と申し出たのに乗じ「中途半端な金ではあかんぞ。一、〇〇〇万円出せ。」などと法外な金員の交付方を要求し、結局右安田に金三〇〇万円を原判示日時までに原判示事務所に持参するよう約束させ、同人が該日時までに右金員を持参しないや、被告人と前記藤原の両名が、わざわざ右安田の店舗まで右金員の取立てに出向くなどしたことが認められるので、これら事実関係からすると、被告人らに金員喝取の意思がなかったとはとうてい認められない。そして、記録を精査検討してみても、原判決の原判示第一の二の事実認定に所論のような事実誤認の違法は存しない。

次に、所論(二)の論旨について案ずるに、原判決書によれば、なるほど、原判決は、その「法令の適用」の部において、被告人の原判示第一の二の所為につき恐喝未遂罪に関する法条のほか暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二二二条)等を挙示し、「右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合である」旨説示していることが原判文上明らかである。そして、恐喝罪が成立する場合その手段として行われた脅迫又は暴行は別罪を構成しないと解するのが相当であるから、原判決が前記のとおり原判示第一の二の所為につき該所為が恐喝未遂罪のほかに暴力行為等処罰ニ関スル法律一条違反の罪に該当する旨説示したのは所論のごとく法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。しかしながら、原判決は、右の恐喝未遂と暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の各罪が観念的競合の関係にあるとして刑法五四条一項前段、一〇条により結局重い前者の罪の刑によって処断しているのであるから、原判決の前記違法は、未だ判決に影響を及ぼすことが明らかな違法とまではいえず、原判決破棄の理由とするに足りない。

したがって、論旨はすべて理由がない。

控訴趣意第二点の論旨について

所論は、要するに、原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、証拠に現れた被告人の性行、経歴、前科をはじめ、本件犯行の動機、態様、罪質等諸般の情状、とくに、被告人は、これまでに原判示の累犯原因となる前科で二回懲役刑の執行を受けたにもかかわらず、その後もなんら反省自戒することなく本件犯行を再度敢行したものであり、該犯行の態様も執拗悪質であると認められることなどを考慮すると、原判決の量刑は相当であって、所論のうち肯認しうる諸点を被告人の利益に斟酌しても、右量刑が所論のごとく重過ぎて不当であるとはとうてい認められない。論旨は理由がない。

よって、本件控訴は、いずれの観点からしてもその理由がないから刑事訴訟法三九六条に則りこれを棄却することとし、刑法二一条に従い当審における未決勾留日数中七〇日を原判決の本刑に算入して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤本忠雄 裁判官 深田源次 川瀬勝一)

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